手塚治虫「バンパイヤ」

 小説の読了報告に比べて、漫画の感想が少なかった事に気がつく。それだけ気楽に読めているというか、読み終えても達成感が無いというか…。

 あんまり規則や法律にしばられすぎているんだ。あなたがたは生きているのだからもっと好きなように自由に生きたいはずです。

 獣に化ける事によって、人間である事のしがらみが脱しようとするバンパイヤの話。
 確かに、この漫画がリアルタイムで連載されていた頃は面白く読めたかもしれません。
 しかし、今読んでみるとどうにも笑えないですよ。
 ほら、よく携帯電話に依存している連中の事を「ケータイを持った猿」っていうじゃないですか。僕は思わずその事を連想してしまいましたね。寧ろ現代日本はバンパイヤ寄りの獣の方が多いのかと思ってしまいますね。自意識を持たず、マスコミに踊らされ、理想すら持たず、そのくせ何かを知った気でいるという…。
 この漫画は登場人物として作者である「手塚治虫」本人が出てくるのですが(手塚治虫は自分を漫画に登場させる事が多い漫画家です)、他の手塚治虫漫画に比べても「手塚治虫」本人の果たす役割は大きく、この漫画に手塚治虫が込めたテーマは作者にとっても大きなものなのだと推測します。
 手塚治虫は漫画家です。表現者として法律を越えたやりたい事が沢山あったのかもしれません。ひょっとしたら手塚治虫もバンパイヤになりたいと思った事があるのではないのでしょうか?
 この漫画のラストは手塚治虫のセリフで〆られます。

 人間なんて一種のバンパイヤなんだ。
 この世にゃやりたいことがいっぱいある。それなのにやれないと、みんな変身してでもやりたくなる。僕だってそうだ…。


 今回の手塚治虫といい、ドストエフスキーといい夏目漱石といい優れた作家というのは時代の先を見据えた作品を残している事が多いですね。