ものうさと甘さとがつきまとって離れないこの見知らぬ感情に、悲しみという重々しい、りっぱな名をつけようか、私は迷う。その感情はあまりに自分のことだけにかまけ、利己主義な感情であり、私はそれをほとんど恥じている。ところが、悲しみはいつも高尚なもののように思われていたのだから。私はこれまで悲しみというものを知らなかった。けれども、ものうさ、悔恨、そして稀には良心の呵責もしっていた。今は、絹のようにいらだたしく、やわらかい何かが私におおいかぶさって、私を他の人たちから離れさせる。
 (サガン『悲しみよ、こんにちは』)

 この冒頭一発でこの作者を好きになった。とんでもない感性だ。