(ファウストVol.2内) 佐藤友哉『灰色のポカリスエット』

 この小説内に語られている気持ちはよく分かる。あるんだかないんだかよく分からない自分の力を持て余し、それを内に内に溜め込んでそれを歪めてしまってどうしようもなくなって。最後には自棄になってしまう、自己を救うつもりが端から見れば狂っているようにしか見えない自己の言動。田舎への呪詛。
 これはいわば、現代の悲劇であると思う。日本の競争社会の中で真面目に生きようと思えば、この小説内に語られている「僕」のように成らざるを得ない。あたかも、特別である事が最も価値のある事であるように僕達を翻弄する日本社会。狂える「僕」の姿は、一流大学に入りそびれた・オーディションに受かり損ねた・スカウトから漏れた、負けたありとあらゆる人達の鏡だ。
 取り返しのつかない事は確かにあるし、そんな簡単に諦められたら苦労はしないのだ。諦めが悪いという事は一種の楔でもあり、その感情はその性質ゆえにたちが悪い。決して振り払う事の出来ない感情を振り払うには、もう本当に痴呆にでもなって狂ってしまうしかないのだ。