侍 [DVD]出版社/メーカー: 東宝発売日: 2007/11/23メディア: DVD購入: 2人 クリック: 79回この商品を含むブログ (15件) を見る

 昨日のBSシネマでやってたのを観た。時代劇にはあまり興味がないのだけれど、筒井康隆先生が監督のファンだということもあってなんとなく観た。


 題材は桜田門外の変井伊直弼暗殺を企む天狗党残党一行に用心棒として雇われた新納鶴千代が主人公。
 登場人物の設定にメロドラマ的な臭さはあったものの、それ以上に人間が生きることの生々しさを無理のない巧みなプロットで見せてくれる。登場人物の一人一人の生き方のスタンスがはっきり提示されている分、「仲間内に裏切り者がいる」という物語の起の部分が事の真相の想像を視聴者に突きつけられる。
 けれどそれ以上に見るべきなのは、「生きること」の矛盾。社会の矛盾が一人の男の生き様と重なりながらも、その見せ方が全然臭くない。一人一人の俳優の演技にも見るべきところが多く、普段は酒を飲み荒れている主人公-新納鶴千代を演じる三船敏郎が「お主といると心が穏やかになる」と親友である栗原栄之助の過程の中で見せる表情の切り替えはまさに目が覚めるかのような見事な切り替え。他に、事件の予感に狼狽する鶴千代の義父-木曽屋政五郎の東野英治郎、一行首領の星野堅物-伊藤雄之助の岩のような強面と内奥を図らせない深い演技。
 こういったものが渾然一体となって、最後の桜田門外での斬り合いのシーンに突き進んでいく時の緊張感がたまらない。雪が吹きすさぶ中一人一人が井伊直弼の乗る籠に突き進んでは切り倒され、血を浴び地に這い蹲る姿-死の恐怖と人間の信念の狭間に葛藤する浪士達一人一人の哀愁がリアルに迫ってくる。
 面白かったです。