今日、父と喧嘩した。その後で、自分の心象を小説風に書いてみた。(一部フィクション)

 父親の説教から一時間後、彼は学校へ行くための上り列車のホームに立っていた。朝の澄んだ空気は冷たかったが、空はぼやけ雲がどことなく薄黒い。
 彼はふと、今まで彼が出会ってきた人の事を思った。そしてその後で先ほどの父親の言葉を思い返し、その単語一音一音をゆっくりと、しかししっかりと反芻し齟齬し、自らの心の鏡にその言葉を照らす。するとそれらは怪しい輝きを持ってして彼に襲い掛かってきたのだ。
 そして、その輝きに目が慣れ始めると、彼は父親がその人達を否定しているのだ、ということに気づいた。彼はその人達を愛していたので、とても悲しくなった。父親の言葉は彼を一方的に叱責してきたが父親が否定してきた事に、友人が肯定していたモノがあったのだ。父親はそういうものを駄目な人間だといったのだ。友人らが、彼に優しく接していてくれ事を思い出すと、彼はさらにいたたまれなくなった。つまり父親は、そういう人間になるなと彼にひどく言い聞かせたのだから。
 しかし人間は結晶ではない。泥を被っているからこそAという人間であり、傷を負っているからこそBという人間なのだ。Aという人間の光り輝く部分のみを取り出してその泥を洗い流してしまったのなら、その人間はもはやAではない。Bの持つ傷を覆い隠してしまうのなら、その人間はBではない。
 しかし彼はさらに気づいてしまった。街中のこじゃれた宝石店で売られている品々の全ては、泥に汚れたものもなければ傷に苦しむものもないということに。
 そして彼は気づいてしまったのだ。自分もまたその同様の列に鎮座させられようとしていることに。道端に捨てられ全てから捨てられるのか、名も知らぬ他人の所有物になるのか。
 そして、どの道彼は自分自身という存在を捨ててしまわなければならないという事に、今になってようやく気づいたのだった。