宇宙衛生博覧会 (新潮文庫)作者: 筒井康隆出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1982/08メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 26回この商品を含むブログ (25件) を見る

 異星人とか異星とかをテーマに8つの短編。今作も筒井康隆先生の独特の毒と狂気と笑いがふんだんに詰め込まれてます。


 結局、異星というのは"自己"の外という意味でとても象徴的な事物だと思う。今の僕達は何でもかんでも常識というもので枠を捉えがちだ。「自分と他人」がテーマだとしても、それは結局「相手は人間なんだから〜」というどこか軟弱な窓枠で物を見てしまいがちだ。自分はが赤く見えるから、他人にも赤く見えるだろうというそういうことだ。
 けれど、僕達が赤いものを赤いと認識できるのは人間としての可視光という枠組みでしかない。生き物によっては人間の捕らえられない紫外線を見ることのできる奴もいる。だから、とにかく決め付けるな・固定するな・自由でいろという激情があふれているように思える。


 自分が見ている世界は他人とは違う世界なのかもしれない、というのはまさに狂気の沙汰。その狂気をうちに押し込めたまま日常を送り、その内奥を小説の世界の中で包み隠さず発露したのが筒井康隆先生なのだと思う。
 この短編の中には人体の一部が菌に腐食されたが食糧不足のためそれを食べるとか、誤って手術にかけてしまった看護婦*1をそのまま解剖してしまったりとかいった、一般的に"グロい"といわれる描写も執拗なまでに出てくる。しかし、そのグロさというのも結局のところ既成概念の中の思い込みに過ぎないのでは?と考え直させるような感覚を覚えてしまったら、読者も筒井康隆先生の狂気に巻き込まれてしまっている。
 会話文の中に「ケケケケ」という表記があるのがとても象徴的。
 そして、その狂気がどこか心地よかったりする。

*1:今では看護士なんですよね、この小説が発行されたのは昭和57年なんですけれど、しっかりと看護婦と表記されてました。