少年 (新潮文庫)作者: ビートたけし出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1992/01/29メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 30回この商品を含むブログ (12件) を見る

 ビートたけしの小説は『新・坊っちゃん (OHTA BUNKO)』が初めてで、その時から他の作品も読みたいと思っていたので購入。
 私が小さい頃のビートたけしのイメージというのは「下品」だとか「乱暴者」といったイメージがあって怖かった。そして自分のその感覚は案外間違っていなかったんだなとも思った。
 ビートたけしというのは「ガキ大将」というフィクションの中で生きる存在なんじゃないかと思う。


 今作はいずれも「少年」をテーマにした短編。小学生の運動会、いじめられっこの悩み、ヤンキーな女性との出会い。
 あまりにも等身大過ぎて明確。そしてそれゆえにシンプルだし、かつて少年だった人間にならその頃の気分が甦ってくるはず。
 二作目の『星の巣』は特に完成度が高い。「望遠鏡」と「そこから見える星」、父親の形見である性能の低い望遠鏡を「父親に申し訳ない気がして新しい物を買えない」気分を母の再婚や学校でうまく友人を作れずにいる兄弟達との対比と絡め合わせて一文一文が象徴性が高く味わい深い物語を作り出している。
 他にも三話『おかめさん』も親との自立のための喧嘩、旅した先での女性との出会いの話の締めがエスプリがきいている。ヒッチハイクで東京に帰ることになった少年が、その女性からお土産にもらった八橋を感傷に浸りながら眺めてる。そしてその八橋を脇から無造作につかんで食べるドライバーを見て、「これが大人なんだ」と感じるその一文でこの小説が終わる。
 その軽いショックと心地よい読後感が魅力的な一冊です。