原始人 (文春文庫)作者: 筒井康隆出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 1990/09/10メディア: 文庫 クリック: 2回この商品を含むブログ (15件) を見る

 全13作の短編集。
 全ての作品に共通して見られるのは現実と虚構を破壊しようとしている模索感。
 熱心に読んでいると「あ、ここで虚構と現実の境目が壊れた」と思わされる一文がどの作品にも必ずあり、面白い。
 作為的なものが偶然かは知らないけれどただひたすらに読者に愚痴をはいているだけのように見える『読者罵倒』の中で「風景がイメージできる文章が全てではない」と「不思議の国のアリス」を引き合いに出しながら啓蒙した後に、神話のパロディと駄洒落や造語次々と現れてくる『不良世界の神話』を持ってきたことにはある一種の感動を覚えた。
 どの小説も実験的な不安定感はあるけれども、言葉だけの世界だからこそ作り出すことの出来るエネルギーを随所に認めることの出来る内容だと思います。