光の帝国 常野物語 (集英社文庫)作者: 恩田陸出版社/メーカー: 集英社発売日: 2000/09/20メディア: 文庫購入: 6人 クリック: 65回この商品を含むブログ (327件) を見る

 そんなわけで恩田陸さんの小説です。恩田陸さんの小説は確かに面白いのだけれども、どこか安っぽい感じがしてしまう。精神的な深入りは避けて「いい話を作る」ということに終始してしまっているような気が、僕にはしました。


 けれどもやはり、彼女はプロの小説家でありまして、世の中をきちんと見定めようとしている。そういうところが段々見えてくるにつれて、この小説も面白く読むことがなっていきました。


 この小説は多人数視点で繰り広げられ、連作短編集となっていますが、それらの話はすべて世界を同じくしており全体として大きな流れを作っています。
 『物語』というものには閉塞感という弱点がある。ある小説家が物語を書こうと思ったらそのテーマに沿った世界観や人物が設定されてしまうのは避けがたく、それが『物語』というものの限界であったりする。
 しかし、この小説の中で多人数視点というのはそういう閉塞からの脱出として機能していてそれぞれの人たちがそれぞれの人生を歩んでいるということにどこか救いを感じられます。
 これは超能力を有する宮城県の常野という一族の末路を辿る物語になっているのですが、その中には第二次世界大戦時の余波やそこから現代社会に紛れつつも揉まれてしまう悲壮感などが描かれており、どこか伝奇的な味わいもあります。
 異人種から見た日本の現代社会の病巣を描いており、その『異人種』という概念はつまり「現状に何かしらの違和感を覚える人」のメタファーとして使われています。しかし、この小説の中ではその病巣を抉り出すようなことをしておらず、最後はただ単純にお涙頂戴の感動的な話に逃げている。
 そこが僕には物足りなかったのだけれども、エンターテイメントにそこまで求める僕の方が場違いというか浅はかなのかもしれない。


 強くは推しません。ブックオフで105円で売ってたら買ってみたら? な程度です。