銀の匙 (岩波文庫)作者: 中勘助出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1999/05/17メディア: 文庫購入: 15人 クリック: 150回この商品を含むブログ (102件) を見る

私は草双紙のおいらんやお姫様の着物の色を選み、またその顎のしたにひとつのすじをいれ、眉のひきかたをちがえるなどいろいろと自分の好みをくわえて、そして昔の神様のように自分のこしらえたものを恋人にしてだいじに引き出しへしまっておいたりした。が、一方にその紙のうえに創造したこれらの美しいものを到底現実の世界には見いだせそうもないということを思ってはいたずらに気をいらだたせた。


まるで誰かのようじゃないか!!!


 とまあ冗談は置いておくにしても二次元萌えとは昔からありました。かの泉鏡花も絵の中の女性に恋をしたといいます。
 昔の絵がなんとなく尊い物に見えるからロマンチックに見えるだけで、今の萌え絵文化も我々が死ぬ頃には見直されているはず。
 死んでからじゃ意味ないか(´д`;)

いろいろな原因から無邪気とか、快活とか、一般の子供がもってる幸福の多くを失った子供らしくない子供が真に子供らしい子供として楽しい我れ知らずの幾時をすごしえたところ、ひっこみがちな憂鬱な子供が太陽の光のしたでのみ授かることのできる自然についての子供らしい知識をたくわえたところ、もって生まれたある性質、それは兄にすこぶる評判のわるかったその性質を培い育てて後の私を形づくったところ、それらの種々なる点で少林寺の境内は私に特別の意味をもっている。

 ちなみにこの小説は一人の病弱の少年の幼少期から青年期を鮮やかな視点で美麗な文章で書ききった傑作。
 病弱で引きこもりがちな少年が持ちがちな人見知りや小ざかしさとそこから来る空想。そしてその空想が引き寄せる子供の頃の「ただ途方も無く巨大なセカイ」への恐れと「ただひたすらに小さな自分」の心細さ。今では何でそうなのか疑問にすら思わなかったことへの疑問に立ち向かっていた頃の無邪気さが恋しくなります。
 そして、子供は純真だし無邪気だけれどそれだけではないそれゆえの残酷さと狡猾さにも心当たりがあります。
 

 なんか、子供のイノセンスを謳った物語や音楽に弱いなぁ。サリンジャーとかBrian Wilsonとか大好きだもの。